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大阪高等裁判所 昭和61年(く)71号 決定

少年 U・K(昭41.7.8生)

主文

原決定を取り消す。

本件を大阪家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、少年の附添人弁護士○○○○作成の抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

抗告趣意第一点(事実誤認、法令違反の主張)について

論旨は、要するに、原決定が、少年及び共犯者らが共同して、被害者らを脅迫したと認定したのは事実誤認であり、また、少年らは、家主から本件延滞家賃の取立について委任を受けており、一方、応待した被害者らの態度が、はなはだ不誠実なものであつたことなど本件における被害者側にみられる落度とを彼此較量すれば、少々の脅迫的文言は権利の行使として違法性が阻却されると解すべきであるのに、原決定が少年らの言辞をとらえて、これを暴力行為等処罰に関する法律1条(刑法222条1項)に問擬したのは法令違反である、という。

よつて、所論にかんがみ記録を調査して検討するのに、少年の原審審判廷における供述及び被害者であるA、Bの捜査官に対する各供述調書(いずれも謄本)によると、原審認定の非行事実は、所論の点を含めてすべてこれを肯認することができる。すなわち、少年は、原審審判廷において、原審認定の脅迫文言について、これに似た脅し文句を言つた旨概ね事実を認める趣旨の供述をしていること(これに対し、共犯者とされているCが被害者のうちの1人を殴打したことは見ていない旨はつきり供述している)、一方、前示被害者らは、具体的かつ詳細に右各脅迫文言を言われたと供述し、その供述内容に迫真性が認められ、同人らは、相手が暴力団員であることに畏怖し、捜査官に対しても当初供述を渋る態度を示しているほどであるから、敢えて虚偽の事実をでつち上げて供述するとは考えにくいことなどにかんがみると、前示各証拠はいずれもその信用性が高いと認めるのが相当であつて、これに対し、右に反する少年及びCの捜査官に対する各供述調書及びC、Dの原審審判廷での各供述は、自己弁護もしくは仲間相互のかばい合いに終始した弁解と認められ、にわかに信用できない(なお、Dの検面調書の内容は、原判示認定の趣旨に反するものではない)。

所論は、前示A、Bの捜査官に対する各供述は、反対尋問にさらされていないから、その信憑性に疑問があるというが、こと脅迫文言についてみる限り、原審において、少年が積極的かつ真摯に事実を争う姿勢を示していたとまでは認められず、従つて、この点に関し、被害者両名を敢えて尋問するまでもないと判断した原審の審理経過及び同人らの前示供述調書の内容に照らし、本件において、同人らに対する反対尋問がなされていないからといつて、その信憑性に格別疑問があるとはいえないから、所論は採用できない。

次に、法令違反の論旨についてみるのに、たとえ、所論のように、少年らにおいて家賃取立の委任を受けていたとしても、被害者らを、深夜、一見して暴力団事務所とわかる場所に連れ込み、長時間にわたり、数人がかりで原判示のような脅迫文言を申し向けて追及したことは、被害者側の落度を考慮しても、暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法222条1項)に当たることは明らかであり、権利の行使として違法性が阻却される場合に該当するとはいえない。

論旨はいずれも理由がない。

抗告趣意第二点(処分の不当の主張)について

論旨は、要するに、原決定は処分が重すぎて著しく不当であるというので、所論にかんがみ記録を調査し、かつ当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するのに、原決定は、傷害及び暴力行為等処罰に関する法律違反に係る送致事実のうち、傷害罪につき非行なしと判断して、少年を不処分に処し、暴力行為等処罰に関する法律違反罪を非行事実として認定したうえ、少年を中等少年院へ送致する旨の決定をしているところ、原審認定の非行事実は、暴力組織の威をかりた暴力団特有の犯罪であつて、その犯情は軽視できず、また、少年が中学卒業後これといつた定職に就かず、徒食の生活を送るうち暴力団に接近し、昭和60年10月には正式に組員となつて本件に及んでいること、少年の性格上の問題点、親の保護能力の点など、原決定がその要保護性について説示するところはあながち肯認できないわけではない。

しかし、少年の処遇についてさらに検討を加えるのに、本件非行について、少年も積極的に加担しているが、事件全体としてみると、少年の立場は、組員として兄貴株の共犯者Dと比較し従たるものに止まることは否定できず、また共犯者Cのように暴力を振つていないことが認められ、他方、被害者側にも本件を誘発するような落度がなかつたとはいえないことなどに徴すれば、暴力団事務所に連れ込んでの事案としては、さほど悪質なものというべきではない。加えて、少年は、原判示のように中学3年ごろから恐喝など問題行動も見られるが、中学卒業後一年間大相撲に弟子入りした経験もあり、これまで保護処分歴がないなど、非行性がそれほど深化しているとまではいえない面があること、暴力団に入つてまだ日も浅く、原審において、少年なりに暴力団から絶縁したいとの意思を表明していること、本件での成人の共犯者は、少年と同様の罪及び傷害罪を含めて有罪とされたが、それぞれ罰金10万円(略式命令)で確定していることとの権衡など一切の事情を総合勘案すれば、少年をこの際直ちに中等少年院に送致することは、暴力団との絶縁がかならずしも容易でないと予想されること、保護環境等が十分とはいえず余後に不安が残ること(もつとも、当審において、少年の保護者から更生への手立てについて陳述書及び今後少年が組と関係ない旨の組長の誓約書が提出されている)など、原決定が指摘する点を十分考慮してみても、なお、処分が重すぎて著しく不当であるといわざるをえない。

よつて、少年法33条2項、少年審判規則50条により、原決定を取り消し、本件を原裁判所である大阪家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 原田直郎 裁判官 谷村允裕 河上元康)

〔参照〕 原審(大阪家 昭61(少)3480号 昭61.5.16決定)〈省略〉

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